「歌月十夜」(present by TYPE-MOON) シナリオ 『「夢十夜」タナトスの花』 ----------------------------------------------------------------------------  目覚めは重い。  泥の中から這い上がるように、意識は眠りから覚めた。 □志貴の部屋  目蓋を開かせる華やかな陽射し。  髪を揺らす爽やかな風。  窓の外からは小鳥の鳴き声が届き、気温は暑くもなく寒くもない。  それは、文句のつけ所がないほど素晴らしい一日の始まりだった。 ————また、朝が来た。  心に沸きあがる焦燥をなんとか圧しこんで無視する。  そうして、心の底に沈澱した退廃はまた少しだけ高さを増した。 「失礼します、志貴さま」 【翡翠】 「ああ、おはよう翡翠。また朝食?」 「はい、支度はすでに済んでおります。あとは志貴さまがお出でになっていただければすぐにでも」 「そっか。すぐに行くから先に行っててくれ。今日も天気がいいからさ、三人で食事をしよう」 【翡翠】 「……はい。それではお待ちしております、志貴さま」  翡翠はしずしずと退室していった。  もう何十、何百繰り返したか判らない朝のやり取り。  遠野家は今日も何一つ大事なく、平和に一日を始めようとしている。 □遠野家居間 【琥珀】 「志貴さん、食後のお茶はいかがですか?」 「あ、いただきます。翡翠は飲まないのか?」 【翡翠】 「……はい、それではいただきます。姉さん、わたしは———」 「アップルティーでしょ? 翡翠ちゃん、朝はいつもそれだものね」 「そうなんだ。それじゃ俺も今朝は紅茶にしようかな」 「はい、かしこまりました。それじゃ今日も三人いっしょですね」  琥珀さんは心から楽しそうに笑う。  翡翠も嬉しいのか、表情は和やかだ。  二人の仲はとてもいい。  顔を合わせるたびに楽しげに話をするし、お互い協力し合う事が多くなった。  以前はここまで判りやすい関係ではなかったと思う。  翡翠と琥珀さんはお互いを大事に思っていたけど、大事に思いすぎるが故にあまり手を取り合う事はなかったのだ。  それが、こうなってからは少しずつ変化していって、今ではこうして仲睦まじい姉妹として朝を過ごしている。 「…………」 【琥珀】 「志貴さん? どうしたんですか、なにやら暗い顔をなされてしまって。何か考え事ですか?」 「え———いや、別に。ただ変われば変わるもんだなって思ってただけ」 「変われば変わる、ですか……? それはなんの事です?」 「いや、だからなんでもないんだって。つまんない独り言だから気にしないでいいよ」 【琥珀】 「ふふ、おかしな志貴さん。悩むべきことなんて無いのにタイヘンですね」 【翡翠】 「……………………」  俺の思惑を知っているのかいなのか、琥珀さんはいつも通りに笑っている。  ……ただ、翡翠はこちらの心を読み取っているのか、申し訳なさそうに口をつぐんだ。 【琥珀】 「それで志貴さん、今日はどうなさいます? 学校もまだお休みですし、のんびりできると思いますけど。あ、なんでしたら裏庭のお掃除を手伝っていただけると嬉しいかなー、とか」 【翡翠】 「……姉さん、あまり志貴さまに頼み事をするのはどうかと思います。志貴さまも一人になりたい時がおありでしょうし」 【琥珀】 「あ、そういえばそうですよね。ごめんなさい、こうして朝を迎えられるのが楽しくて、ついはしゃいじゃいました」  琥珀さんは照れ隠しに笑顔を浮べる。 「……そうだな、翡翠の言うとおり午前中は一人でのんびりしてるよ。用が出来たら顔を出すから、二人とも仕事に戻ってくれ。あ、けど適当でいいからな、あんまり根を詰めすぎないように」 「はい、ありがとうございます志貴さん」 「……かしこまりました。それでは、ご用がありましたらお呼びください」  二人は部屋に戻って行く。 「—————————」  重い腰を上げて、外に出る事にした。 □遠野家屋敷 ———屋敷はいつも通り佇んでいる。  裏手の森も相変わらずなのだろう。  ここはとても静かで穏やかだ。  音といえば鳥の鳴き声と木々のざわめきだけ。  鉄柵の向こうに見える道に自動車が通る事もないし、周りに民家がないものだから人の気配もありはしない。 「———————」  そう、気配がない。  人の気配がまったくない。  ここには俺と、翡翠と、琥珀の三人の息遣いしか存在しない。 「—————嘘だ」  そう、そんな事がある筈がない。  そんな馬鹿げた話はただの夢物語だ。  その証拠に、こうして門の外へ出れば——— ———その先には、本当に何も無い。 「—————嘘、だ」  力無く呟いて、屋敷に戻る事にした。 □遠野家屋敷 □中庭のベンチ 「……いつから、ココはこうなったんだっけ」  もうそれさえ思い出せない。  そもそも自分と翡翠と琥珀、それ以外にどんな人間がいたかさえ思い出せない。 「———————」  何一つやる事などなく、重い体を椅子に預けた。  ……世界は、完全に閉ざされていた。  あるのはこの屋敷だけで、外というものが存在しない。  それを翡翠と琥珀は疑問にも思わず、今まで通り普通に暮らして、俺の世話をしてくれている。  ……食料も電気も今まで通り供給されていて何一つ不自由はない。  学校に行く必要もないし、将来を不安に思う事もない。  何故なら、ここは俺と彼女たちしか存在しない、都合のいい夢だからだ。 「—————ふん。都合のいい夢、か」  それが都合よく感じなくなったのはいつからだろう。  ……初めは、確かに俺の身勝手な夢だった。  自分と翡翠と琥珀さん。  この三人で一週間ぐらい、何をするでもなくのんびり過ごせたらいいだろうなって思っていただけだった。  それが叶って、この夢を見始めて喜んだのがもう遠い昔に感じてしまう。  ……夢はいつまでたっても覚めなかった。  俺たち三人だけの生活は延々と続いて、いつもの朝、いつもの昼、いつもの夜を過ごして、またいつもの朝に戻る。  日々は毎日が違う。  繰り返しているワケではないが、それでもたった三人だけの世界、この屋敷しかない世界だ。  俺は段々と不安になってきて、必死になって夢から覚める方法を探した。  けれど何をしても一日は変わらない。  翡翠と琥珀はよく尽くしてくれるが、そんな事で不安が拭える筈がなかった。  三人で過ごせたらいいと、そんな自分勝手な夢を描いておいて、いざそうなってしまえばあるのは退屈だけだったのだ。  それは、これが本当に夢だからなのだろう。  俺たちは永遠にこの夢の中にいる。  歳をとる事もなければ、死ぬ事もない。  いつかは覚めるかもしれないと、もうこれっぽっちも信じていない希望を抱いて、こうして退屈に身を沈めている。 「————————」  飽いている。  満たされているというのに、飽いている。  なんでも出来るという事は何をしても同じという事だ。  翡翠を抱く事もあるし、琥珀を抱く事もある。  翡翠を犯した事があり、琥珀を犯した事がある。  それにも飽きて、変化を求めて二人を辱める事さえとっくにやった。  けれど結果は変わらない。  俺はこうして朝を迎え、二人はそんな俺を助けるように仕えてくれている。  それが、時にたまらなく重かった。 「……結局、何をしても」  二人が俺を嫌う事はないし、俺が満たされる事はない。  退屈だけが体を動かす。  体に沈澱した退廃がいつかこの身を支配する時も来るだろう。  いや、それとも。  俺はとっくに、この壊れた世界の住人になってしまっているのだろうか。 「————————はあ」  濁った水槽で泳ぐ魚のようだ。  こうして何もせず溺れるのも、彼女たちを汚して溺れるのも変わらない。  なら———� ------------------------------- 1、琥珀を求める。 --> *f544 2、翡翠を求める。 --> *f545 3、二人を求める。 --> *f546 ------------------------------- *f544 ○『琥珀を求める。』 □中庭のベンチ  雌の体で退屈を食う。  彼女はこの時間、俺が訪れるのを待つように部屋にいる。 ————フン、これでは誘われているのはどちらなんだか。  だがそれでもかまわない。  琥珀が俺を求めようとしているのか、琥珀が俺を受け入れようとしているのか、そんなコトはどうでもいい。  ようは忘れられればいいのだ。  この退屈がわずかでも消えて、俺たちの罪が少しでも忘れられるのなら、それ以外の感傷など考える価値もない———— □琥珀の部屋 「……っ……んんっ、ぁ……」  くぐもった声が響く。  甘くねだるような声は、女というよりは雌の卑猥さを感じさせて、よけいに突き出す動きに拍車をかけた。 「んっ……!は、あ———そんな、後ろから、なん、て……!」  揺れる体。  突き出すリズムに合わせるように息を吐く琥珀。  びちゃびちゃと蜜の混ざる音、  ぱんぱんと肉のぶつかる音が入り乱れて、暗い部屋は媚薬に満ちた魔窟のように思えた。 「———相変わらず琥珀の中は別人だな。清楚なフリをして、ココは男を呑み込む事しか考えてないワケだ」  力任せに琥珀の体を引き寄せて背中から抱いた。  そのまま前に倒して、突き上げた尻の柔肉を鷲掴みにして、何の前戯もなく、硬く張り詰めた男根を突き入れる。 「————んくっ……! あ、んあ、はっ……!」  痛みを堪えるような声。  だがそれも初めだけで、琥珀の体はすぐに俺のモノを受けて入れた。  肉壺にはたやすく蜜が溢れ、怯えていた肉襞は侵入してきた異物を懐柔するように包み込む。  びちゃり、と淫音がするのはすぐだった。  俺の先触れと琥珀の愛液は混じり合い、溢れ、今では彼女の尻を汚し、下になったヘソまで垂れている。 「はっ、やっぱりな……! 思った通りだ、琥珀にはまだるっこしいコトなんて必要ない。どんな時だろうが挿れられれば悦ぶ、そういう体なんだろおまえはっ……!」  苛立ちをぶつけるように腰を突き上げる。 「んっ……は、はい、琥珀は志貴さんの、物です、から……!」  絨毯に手をついて耐える琥珀。 「っ……!またそれか、どうしておまえも翡翠も、似たようなコトしか言わないっ———!」 「くぅ……! あ、はあ、あ……!」  腰を突き出すたびに揺れる体。  琥珀の膣は乱暴な俺の挿入に慣れてきたのか、段々とこちらの感覚を刺激してくる。 「は——————く」  歯を食いしばる。  どろどろと、何か得体の知れないモノが回っているような琥珀の膣。  彼女の何百という肉襞はそれぞれ別個のモノでありながら、一つの意志で統合されている。  ぐるりと。ケロイドで俺を取り囲み、螺旋に絡みついては絞り、流れ、果てがない琥珀の襞。 「はあ……あ、志貴さん、今日は、なんだ、か——」  その感覚に呑まれぬよう、腰を引いては琥珀自身を貫く。 「んあっ……! やっぱり———志貴さん、今日はすごく、おお、き———」  はあはあと腹で息をする琥珀。  そのたびに突き入れたペニスは、琥珀の膣内で際限なく膨張していくようだ。 「あ—————はあ、あ————」  果てそうになる。  それを必死に堪えて、回すように男根を打ちつける。  琥珀は腰をあげて、俺と同じように、その淫靡な尻を突き出してくる。 「んく、んっ———! 志貴さん、もっと深く……!」  もう外には出さないというかのように、琥珀は呑みこんだ男根を絞り上げる。 「—————————っ」  根元まで入ってしまい、体まで引きこまれそうになる錯覚を覚えた。 ————いや、それは錯覚じゃない。  事実、俺は琥珀に溺れている。  今だってただ琥珀に苛立ちをぶつけにきたというのに、結局は我を忘れて快楽に身を委ねようとしている。  ……この夢から出られない、と俺は言った。  けれどそれは、結局、琥珀の味を忘れられず、こうして未練を持ってしまっているからではないのか。 「あ、んふ、あ、んぁっ……! は、志貴さん、もう……!」  貪欲に俺を求める琥珀の声。  それで、薄れかけていた理性が戻った。  卑猥に突き上げられた腰。  ぐじゅぐじゅと愛液と腺液とで爛れた性器。  熱く火照った体は軟体動物のような曲線を描き、  白く沁み一つない背中は、そのまま皮を剥ぎたくなるほど艶かしい。 「ふぁ、あ……! ん、奥に、えぐれ、て———!」  琥珀から求めてくる。  俺が動きを止めようと、彼女は自分から腰をあげて前後に膣内をこすっている。 「ぁ————ぐっ……!」  乱暴に、削り取るような勢いで笠をなぶっていく襞。  いっそう強く琥珀は俺のモノを絞り上げ、腰下から熱い塊を招きよせようとする。 「くっ———この、犬じみて後ろからやられてるっていうのに、おまえは———!」  そんなに、この泥みたいな白濁液が欲しいっていうのか……! 「……だって、志貴さんの、熱くて———んっ!」  苦しげに身をよじる琥珀。 「だめ、もうだめ……! はやく、はやくください、志貴さ、ん———!」 「この……そうかよ、欲しいってんなら幾らでもくれてやる……!」 「はい、お願い、お願いします、志貴さん……!」  一層高く腰をあげる琥珀。  その尻を握りつぶす勢いで掴み、そのまま——— 「ほら、これで満足か琥珀っ!」  後ろから、動物のように琥珀の膣内にぶちまけた。  脈動する肉棒。射精のために跳ねあがったモノは、琥珀の膣のなかで暴れまわり——� 「ん、あぁああああ———!」 ———期待に濡れていた琥珀の意識を打ち壊した。 「……あ、あは、あ—————」  びくびくと痙攣して、琥珀は射精の余韻に浸っている。  彼女のなかは動きを止め、溢れ出さんばかりの精液を受け入れている。  どろどろと秘裂からこぼれる白。  運動を止めたためか、琥珀の背中には玉のような汗が浮かび上がってくる。  はあはあという呼吸は、満ち足りて眠りにいたるような安らかさだ。 「————————」  だが、そんな事は俺には関係がない。 「なにを休んでいるんだ。自分だけさっさとイッちまって俺はほったらかしか? 随分と主人に失礼じゃないか、琥珀」  まだ彼女のなかに入ったままのペニスに力を入れる。 「——————志貴、さん」  琥珀は床に手をついたまま、それこそ犬のように俺を見上げる。 「わかるだろ、俺のはまだおまえの中で勃ったままなんだってな。……ったく、手を抜きやがって。ここにきてから琥珀さんは傲慢になったよな。昔と違って、人より先に自分が悦ぼうとするんだから」 「あ————いえ、わたしは……」 「なんだ、その顔を見ると本当にそうだったワケか。……まあいいけど。俺だって琥珀さんのコトより」  ぐっ、と彼女の無防備な両足に手をかける。 「こんなふうに、自分のコトしか頭にないからな!」  そのまま、琥珀の中に肉の棒を入れたままで、彼女の体を反転させた。 □琥珀の部屋 「いっ……!」  ベッドに倒れる琥珀。  その上に覆い被さって、俺は滾ったままのペニスで琥珀の膣を捻りまわした。 「あ———んあ、あ、は……!!!」  快感を殺しきれず喘ぎ声を洩らす琥珀。 「……へえ、また濡れてきた。すごいな、あれだけやっといてまだ始めたばかりみたいにヒクヒクしてる。流石は琥珀さん、体の方はあの程度じゃ満足してなかったんだ」 「ぁ————————」  かあ、と顔が真っ赤になっていく。  琥珀はこうして二人きりになると途端に初心になるというか、可愛くなる。  遊びで戯れる時はこっちが舌を巻くほどの巧さを持つのに、真剣になってしまうと彼女の中で何かが変わってしまうようだ。 「——————」  ……こういう時の琥珀には、決まって罪がない。  彼女は本当に、心の底から俺を愛していてくれる。  それに気付いてしまえば自己嫌悪に圧し潰される。 「————琥珀さん。足、開いて」  だから、気が付かないように、この快楽に没頭するしかなかった。 「は、んあ…………!」  がくん、と琥珀の体が上下する。  力任せに打ち付けた腰が、恥骨を通して彼女の体に衝撃を与える。 「ふぁ———! あ、んあ、志貴、さん……!」 「——————————」  琥珀の声なんて聞かない。  ただもう、沸き上がってくる衝動に任せてペニスを走らせる。 「っんく———! あ、やめ、志貴さん、そんな、だめで、す……!」  喘ぐ何か。  淫裂からは俺の精液がこぼれだし、ぐじゅぐじゅと汚らしい音をたてる。 「ん、んあ———あ、は……!」  弾け合う体。  狂ったように腰を打ち付ける自分の体。 「あ、あうっ、んっ……! ふぁ、だめ、だめです、志貴さん———そんな、続けて、なんて」 「—————————っ」  琥珀の声を振り払って腰を走らせる。  生殖器に集まった血液は沸騰し、睾丸は熱湯の中にあるように痛い。 「んっ、んくっ、あ、だってこんな、志貴さんの体、もた、ない———!」  ……こんな時でも遠野志貴の体を心配しているのか。  だがそれとは裏腹に、疲れきっていたはずの琥珀の膣は貪欲に俺のモノを受け入れている。  出し入れされる肉の塊。  それを咥え。密着し。じるじると音をたてて、ヒルのように吸い付いてくる。 「や、やめてください志貴さん、そのような無理をしては、ますます————」 「————うるさい、黙ってろ琥珀っ!」 「—————あ、んあ、あ……!」  奥までねじ入れた男根をさらに突き入れ、琥珀の膣をかき乱す。  内部から、その腹を突き破らんばかりの乱暴さ。 「俺の体なんてどうでもいい。どうせ生きてたって、このまま———」  屋敷から出られず、ただ日々を過ごすだけなら生きていたって意味はない。 「んっ————志貴さん、それ、なら————」  琥珀の声。  彼女はそれなら———いっそ、なにをしてしまえと言ったのか。 「あ……いい、いいです、来て、志貴———!!」  琥珀の声。  俺を受け入れようとする体。  ひくひくと揺れ、絶頂を迎えようとするその内部。 「く——————こは、くっ……!」  突き入れたモノが弾けた。  びゅくびゅくと音をたてて打ち出される二度目の迸り。 「あ——————く」  目の前がゆらめく。  ……琥珀の言う通り、体はもう言うコトをきかない。  手足を動かす力も失われ、そのまま、琥珀の胸に体を預ける。 「……志貴さん、お体に大事はないですか?」 「————————」  彼女の気遣いに答える事などできない。  ……焦燥に任せて、激情を彼女にぶつけるだけだった自分にどんな言葉があるだろう。  俺は琥珀の胸から離れてベッドに横たわった。 □琥珀の部屋 ———そうして、今まで通りの終わりを迎える。  ……外はじき落陽だろうか。  暗く沈むこの部屋にいても外の移り変わりはよくわからない。  もっとも、知ったところで意味などない。  この閉じた一日の中、意味のある事なんて何もない。 「志貴さん、そのままでは風邪をひいてしまいますよ」  言って、シーツをかぶせてくる琥珀。 「……そうだな。いくら過ごしやすいっていっても、この格好じゃ風邪をひく」  答えて、ただぼんやりと天井を眺めた。  彼女は一度だけ申し訳なさそうに目を伏せてから、いつもの笑顔で立ちあがる。 「もうお夕食の時間ですね。志貴さん、今日は何をお食べになりたいですか?」 「うん? いや、琥珀さんの作ってくれるものなら、なんでも」 「かしこまりました。それでは夕食の支度をしてきますから、時間になりましたら食堂に来てください」  琥珀は何事もなかったように去っていく。  そうして俺も、こんな感傷を胸に圧しこんでまたいつも通りの朝を迎えるのだろう。  ……ここは、確かに俺の見た夢だ。  なんの気兼ねもなく彼女たちを愛せる世界。  翡翠と琥珀。  その二人を等価に求めてしまい、それが叶えられた人工楽園。  始まりは全て、遠野志貴の身勝手な夢。  だから最後まで、この退屈に呑まれながら俺は彼女たちを愛するしかない。 ————そう。  他には誰もいない、閉じたタナトスの花の中で。 *f545 ○『翡翠を求める。』 □中庭のベンチ 「———————」  翡翠を抱くのか。  ……まあ、それもいいだろう。今まで何度も欲望の捌け口として抱いてきたんだ。今更なにを道徳家ぶる必要があるという。 「………………」  重苦しいため息をついて、椅子から立ちあがった。 □遠野家1階ロビー  幸い、翡翠の姿は見当たらなかった。  翡翠がいないのでは抱く事も犯す事もできない。  淀んだ水槽に棲む魚は分相応に、部屋に戻って過ぎていく時間だけを貪ろう——— □屋敷の廊下 【翡翠】 「これは志貴さま。お部屋にお戻りになられるのですか?」 「——————翡翠」  と。あともう少しという所で、翡翠と遭ってしまった。 【翡翠】 「志貴さま……? 何かお顔の色が優れませんが、お体の方は———」 「大丈夫だ。翡翠が気にするほどでもない。……だいいち俺に何かあっても医者はこないだろ。倒れる時は倒れる時でしょうがないさ」 【翡翠】 「それは……そう、なのですが」  申し訳なさそうに視線をさげる翡翠。 「————————」  それで、さっきまでの考えは消えてくれた。  ……翡翠は琥珀さんとは違う。  琥珀さんはこの状況を心底楽しんでいるが、翡翠は時折、こうして俺と同じように戸惑っている。  だからよけい敏感に俺が捨て鉢になっている事に気付いて、自分も塞ぎこんでしまうのだろう。  ……そんな翡翠に自分の感情をぶつけるのは忍びない。  それでも鬱になるのは、それが解っていながら翡翠を犯してしまう自分がいるという事だ。 「———すまない。部屋に戻るから退いてくれ。今日はこのまま眠るから、夕食はいらない」 【翡翠】 「……志貴さま。何か、わたしにご用がおありなのではないですか……?」  俺の苛立つ顔を覗きこむ翡翠。  ……これ以上そんな顔をされると、やりきれなくなって彼女を犯してしまいそうだ。  それがいつものパターンだし、実際、俺の中で翡翠を無茶苦茶にしたいという感情が沸きあがっている。この生活が始まって、俺の中のブレーキは段々と利かなくなっている。 「———持ち場に戻れ、翡翠。おまえに用なんてないと言っただろう。だいたいな、余計な気遣いをする使用人なんて目障りだ」  きっぱりと言い捨てる。 【翡翠】 「……はい。申し訳ありません、志貴さま」  ……だから、それが堪える。 「—————————」  言葉をかみ殺して、翡翠の横を通りすぎた。 □志貴の部屋  そうして、気が付けば夜を迎えていた。  気だるい体をベッドに横たえる。 「—————————」  眠ってしまえ。  どうせ夢など見ないのだし、目が覚めればまた朝がやってくるだけだ。  こうして起きて息をしているのも、植物のように眠って呼吸を行うのも、そう大差はない。  なら何も考えず、ただ生きているだけの眠りの方が、何も考えなくて済むぶん幾分かましだろう。  ……だが、そんなものはただの強がりだ。  目を覚ましていれば際限なく彼女たちを求めてしまう。  そんな自分を認めたくなくて、今はただ眠りにつこうとしているだけなのだから。 ——————ぴちゃりと。       何か、滴るような音がした。 「————————」  まだ微睡み。  意識は浮上しきらず、体はわずかに寝返りをうつ。  ……ん……む……ぁ……  押し殺す声は、とても近くから聞こえてくる。 「—————————」  まだ微睡み。  眠りについていた意識は、  ……は、ぁ……んく、ふ……あ  甘い、熱い彼女の声で目覚めようとする。  どくん、と体の熱があがっていく。  腹の下、足の付け根に粘つく唾液。  そこだけがイヤに熱く、また寝返りを打ちそうになった。  ……ぁ……志貴……さま……ん……  弾む吐息が、ソレにかかる。  眠りながらも自分自身が勃っているのだと胡乱な頭が理解した。  固まった自身のモノは何かに触れられていて、その感覚が眠りを覚まそうとする。  ……腰がもぞもぞする。  眠っているのに呼吸が荒くなる。  突き出したソレはなお逞しく屹立し、彼女の舌と吐息を浴びて、いますぐにでも迸ろうと脈打っている。 「—————————」  そうして微睡み。  意識はうっすらと浮上して、俺は、その姿を視界に納めた。 「んっ……んん、あっ……ん……」  その、懸命な奉仕を見て、あらゆる理性が消失した。 「—————————」  声が出ない。  眠っている遠野志貴。  その体に、翡翠は懸命に、埋没するように、一途な愛撫を続けていた。  揺れる赤毛。  男の器官を口に含む、という行為が恥ずかしいのか、いつ俺が目覚めるとも知れぬ事が恥ずかしいのか、翡翠の頬は羞恥に染まっている。  それでも彼女の動きは止まらない。 「……んっ……志貴さま……こんなに、あつい……」  切なげにもれる声。  彼女の唾液と、俺の腺液で濡れに濡れた男根を滑る指。  じゅっ、じゅっ、と翡翠の指がためらいがちに上下するたびに水気が跳ね、俺は——— 「————————っ」  声を殺して、果てそうになる衝動を堪えた。  射精を圧し留めたペニスはさらに力強さをまして、翡翠の指から逃れようと脈動する。 「……んっ……んあっ、んっ……!」  弾かれて、それでも翡翠は愛撫を止めなかった。 「……はっ……ん……んむ、む……んっ……」  小さな、可憐な唇が先を含む。  さきほどから腺液をだらしなく洩らしている亀頭を受け入れるため、翡翠は精一杯口を開いて吸い付いてくる。  はむ、と。  翡翠の舌と、柔らかな唇の感触。 「—————っ」  耐えきれなくなって声があがった。 「ぁ……」  翡翠の動きが止まる。  翡翠は目を覚ました俺を見つめた後、それでも、熱心に奉仕を再開した。 「やめろっ……! 翡翠、おまえ何を———」  体を起こして翡翠を離そうとする。 「……イヤです……!どうか、このままお役にたたせてください、志貴さま……!」  泣き叫ぶように言って、翡翠は脈打つ俺自身に頭を下げた。 「な———役に立つって、何言ってるんだ。俺は翡翠が役にたたないなんて、そん、な———」  こみ上げてくる快感を堪えながら言う。 「……ですが、わたしには何もできません。日に日に気落ちして行く志貴さまにしてあげられる事がない。こんなに側にいるのに、志貴さまの心が枯れていくのを見ているしかできない。だから……だからせめて、こんな事でしか志貴さまを悦ばせられないのです……!」  瞳に涙をたたえて翡翠は言った。 □志貴の部屋 「——————翡翠」  ……だから、おまえがそんなだから、捨て鉢になって翡翠を抱くコトもできない。  一晩だけでも、翡翠を抱けば束の間の安息を得られると解っていても、おいそれと抱けなかった。  だがそれもおしまいだ。  支離滅裂ともとれる翡翠の言葉でタガがはずれた。  いや、そもそも———ここまで昂ぶってしまったものを、今更大人しくさせる事などできない。 「……志貴さま。志貴さまが望む事でしたら、わたしはただ従うだけです。ですから、どうか———」  元気を出してください、とでも言うつもりだったのだろう。  だが、そんな言葉は聞けない。どのみち何をしても俺の苛立ちが消える筈がないからだ。 「———翡翠。正直に言うと」  ベッドから立ちあがる。  翡翠は弱々しい瞳で俺を見上げている。 「俺は今、たまらなくそういう気分なんだ」  翡翠の手を取る。  ……本当に馬鹿な話だ。  どうせこうなるのなら、我慢などせずに初めから求めていれば良かったのに———! 「んくっ……!!!」  翡翠の声があがる。  俺は翡翠を押し倒し、有無を言わせず、カチカチに固まったペニスをぶちこんだ。 「あ、んっ——————!」  乱暴に、後ろからねじ込まれて声を切らす翡翠。  ぎちり、と秘裂にねじいれたペニスは悲鳴をあげるが、それでも構わず奥へ奥へと挿入していく。 「はあっ……! あ、はぁ、は……っ!」  出し入れするまでもない。  少しずつ奥に入れるだけで、翡翠はぶるぶると体を震わせている。 「———ふん。なんだ、しっかり濡れてるじゃないか。……そうか、人のモノを舐めている時に勝手に感じていたわけか、翡翠は……!」  ずっ!  中ほどまで挿れていた肉を一気に引き戻す。 「ふぁ……!」  甘い声をあげてアゴをはねあげる翡翠。 「ほら、こんなに零れてる。翡翠の中からとろとろ流れて出してさ、おかげでこっちもびちゃびちゃだ。これ、全部翡翠のおもらしだぞ」 「……ぁ……そんな……おもらしなんて、わたし、して、いません———」 「じゃあこれはなんだよ。スカートまで濡らして、はしたないったらない」  ぶっくりと膨れた翡翠の秘裂に手を伸ばす。  わざとびちゃりと音をたて、そのまま中指を翡翠の秘裂に挿し入れ———ぐっ、と釣り鉤のようにひっかける——� 「ひ————!あ、んあ、おやめください、そんな、爪を立てない、で……!」  かまわず続けた。  翡翠の中に溢れている蜜を指でかき出す。  それが刺激になるのか、愛液はさらに溢れ、結果として俺の手と衣服をよけいに汁気まみれにする。 「——は、ホントにおもらしだな翡翠は。これじゃ指だけで十分なんじゃないか?」 「—————」  翡翠ははあはあと息を弾ませている。  その沈黙は肯定ではなく否定だろう。 「————だろうな。翡翠はこっちが眠ってるっていうのにせがんでくるほどやらしいんだから」 「ぁ……いえ、わたしは、そんな———」  翡翠の腰を掴む。  ためらいがちに差し出された臀部を引き寄せ、ふくよかな尻の割れ目を指でなぞる。 「あ、いや……!」  マシュマロめいた肉と肉が侵入者である俺の指を挟みこむ。  それを強引に無視して、もう一度尻の下、濡れそぼった秘裂に触れて位置を確認する。 「っ……ん……あ……あ」  次に何が来るか解っているのか、翡翠の吐息は甘えているように聞こえた。 「ほら見たことか。翡翠のココ、ヒクヒクして我慢できないって言ってる。本人と違って体は正直だな」 「——————」  翡翠はただ切なげに吐息を洩らす。  柔らかな陰部に触れていた手を離して、入れ替わりにさっきまで彼女の膣に入っていたモノを持ち出す。  そうして——� 「そら、こうして欲しかったんだろ翡翠!」  容赦なく、一度で奥まで到達するように打ちつけた。 「————————!」  びくん、と痙攣する翡翠の体。  それでも止めない。  突き入れた時と同じ勢いでペニスを引き抜き、さらにもう一度突き入れる……! 「はっ……! あ、あああああ、あ———!」  泣くような翡翠の声。 「あぐっ、ん、いい、です、志貴さ、ま————!」  懸命に応えようとする翡翠の体。 「はっ、ああ、んあ、は、あ———!」  拒むだけだった膣内が動く。  絡んで、翡翠を責める俺自身を愛してくる。 「っ——翡翠、もっと尻、あげて———」 「……っ……は、はい……!」  苦しげに腰を突き上げる翡翠。  ……打ち付ける行為は止まらない。  ぱんぱんと響く音は、なにか知らない部族のリズムのようだ。  翡翠の尻と俺の恥骨がぶつかり合う。  そのたびに翡翠の体はひきつけを起こして、翡翠の中は一瞬だけ強く引き締まる。 「ふっ———そう、いいぞ、翡翠———」 「ぁ……はい、嬉しいです、志貴さま……!」  慣れていないのだろう、翡翠はぎこちなく腰を動かし始める。それに俺の体が応え、俺たちは八の字を描くように衝突を繰り返す。 「ふぁ、ん、んんっ、っ……!」 「く————————ひす、い」  息があがる。  先ほどから翡翠に愛撫されていたソレは、溜まりに溜まったモノを吐き出そうと脈動する。 「翡翠、出す、ぞ……!」  強く打ち付ける腰。翡翠の臀部が臍の下を圧迫する。 「は、はいっ——! どうぞ、志貴さまの望まれるとおり———翡翠を、愛してくださ、い……!」  翡翠は体を引き、俺は一段と強く腰を突き出し、そのまま、翡翠の膣へその塊をねじ込んだ。 「んあ———ああぁあああ……!」  体ばかりか声まで震わして、翡翠は俺を受け入れた。 「—————————あ」  たまらず、こちらも息が漏れた。  ……どぶり、と翡翠の中からこぼれてくる白い粘り。 □志貴の部屋 「ん……あ、は……」  思う存分吐き出した精液。  その熱さを堪えるように、翡翠ははあはあと息を吐く。 「——————」  射精し、もう半分ほどに萎えたモノを引きぬく。 「…………」  びくん、と体を震わせる翡翠。真実、これで彼女を苦しめるモノはなくなった。  だというのに。 「……志貴、さま」  翡翠は荒い息遣いのまま俺のモノへと顔を近づけ、 「……ん……ぁ……」  尿道に残った滓を、その唇で吸い出した。 「……翡翠」 「……はい。志貴さまが少しでもお楽になれるのでしたら、わたしは出来る限りの事をしたいのです」 「——————ばか。そんなの、しなくても」  いいんだ、とは言えなかった。  翡翠が何をしてくれようが、この夢から覚めないかぎり———結局は、俺は翡翠を責めてしまうのだから。 「……けどまあ、出来る限りの事をしてくれるんなら」  今夜はこのまま二人で眠るのもいいだろう。  どうせ明日になってもこの生活は続く。  目が覚めて、また一人きりで朝を迎えるというのなら、せめて———傍らに翡翠がいるのなら、あの焦燥は消えてくれるかもしれない。 「今夜はこうしていよう。翡翠が出来る範囲でいいから」 「————はい。志貴さまが望むのでしたら、朝が訪れるまでお側にいさせていただきます」  翡翠は頷き、体を洗うために少しだけ部屋を離れた。  その間にこっちもキレイな体にしておいて、あとはぼんやりと、何の意味もなく夜を過ごす事になる。  ……それは、確かに自分が夢見ていたような時間ではなかったか。  こうして翡翠と過ごせて、彼女を愛して、彼女たちを求められる世界。  翡翠と琥珀。  俺は無意識に二人を等価に求めてしまった。  そうして、今はこうしてその願望の中にいる。  ……始まりは全て自分の身勝手な夢。  だから最後まで、この自己嫌悪に呑まれながら遠野志貴は彼女たちを愛さなければならない。  そう。  この、他には誰もいない、赤く閉じたタナトスの花の中。 *f546 ○『二人を求める。』 □中庭のベンチ  あの二人を求める。  初めからそれを願って出来たのがこの世界だ。  ならそれは不可能な事ではないし、なにより——今更、そう珍しい事でもない。 「——————」  気だるかった体に少しだけ熱が戻る。  ……いつから日が翳り始めたのか、時刻はもう夕方だった。  椅子から腰をあげ、赤く染まろうとする屋敷へ足を向けた。 □琥珀の部屋  琥珀の部屋に入る。 「あら、いらっしゃいませ志貴さん。夕食前になんのご用ですか?」  笑顔で声をかけてくる琥珀に感情のない眼差しを向ける。 「琥珀、今夜は俺の部屋に来てくれ」 「———かしこまりました。わたしでよろしければよろこんでお仕えさせていただきます」  いつも通り柔らかな笑顔でおじぎをする琥珀。 「翡翠も連れて、な。仲間はずれはよくないだろ」 「————————まあ」  琥珀の笑顔は明るいものから、どこか楽しむような物に変貌した。 「承知いたしました。翡翠ちゃんにはわたしの方からしっかりと言いつけておきますわ志貴さん。  ……ええ、この前のような事にはならないよう、しっかりと教育しておきますから」  小悪魔を思わせる笑み。  楽しげに声を弾ませる琥珀に背を向けて、自分の部屋に戻る事にした。 □志貴の部屋  夜の帳が落ち、彼女たちが訪れた。 「お待たせしました志貴さん」  あくまで普段通りの琥珀と、 「……失礼いたします、志貴さま」  慣れる事はできないのだろう、ためらいがちな翡翠と。  二人は同じ容姿でありながら、その在り方は正反対とも言えるものだ。 「—————————」  ベッドに腰をかけて二人を眺める。  ……衣擦れの音。  琥珀はごく自然に帯をほどき、その裸体をさらけだす。 「ほら、翡翠ちゃんも」  琥珀に促されて、翡翠はたどたどしい手つきで襟首のリボンを外す。  そうして月明かりの下、よく似た二つの女体が俺の前にかしずいた。 「それでは志貴さん、今夜はいかがいたしましょう?」 「……そうだな。まずはコイツを鎮めてもらおうか」  すでに十分に勃起しているモノを解放する。 「はい、それでは仰せの通りに」  ぺこり、と丁寧なおじぎをする琥珀。 「…………はい。それでは失礼いたします、志貴さま」  羞恥をかみ殺すように答える翡翠。  二人はあくまで対照的に、俺の足元に膝をついた。  二人の吐息を鋭敏に感じ取る。  赤々と反り返った肉棒に絡みつく二つの吐息。 「……ん……」  翡翠はためらいがちに舌を伸ばし、琥珀は味を確かめるように舌を這わせてくる。 「———————っ」  その熱さに、わずか腰が動いた。  二人の舌は、その体温は違えど確かな熱さを俺に伝えてくる。 「……はっ……ん……」  ヒルのような赤い舌が雁を滑る。  翡翠はいまだに恥じらいがあるのか、舌先だけで竿を舐める。  ぬらり、と唾液を引いて裏側を刺激する小さな軌跡。 「ん———志貴さんの、もうこんなにおっきいん、です、ね」  ぞろりと、琥珀は舌全体で舐めあげる。  竿ではなく肉の張り詰めた亀頭を磨くように、何度も何度も舌を動かす。  亀頭というのは軽くいじられるとむしろ痒い。そのじれったさが、よけい興奮を強めていく。 「翡翠。もっと強くできないのか」 「……はい、こうでしょうか志貴さま」  触れていただけの舌先に力が籠る。  つう、という感覚がぬらり、という物に変わる。  ぬっとりと唾液をしたたらせた翡翠の舌が、固く凝固した男根を濡らしていく。 「んふ———いいなあ、翡翠ちゃんのほうがおいしそう」  笑うような琥珀の声。  彼女はまだ執拗に亀頭だけを愛撫している。  てらてらと琥珀の唾液で光る先端。  尿道にはすでに先触れの液が零れ出していて、琥珀はそれを丹念に舐め上げていく。 「……けど、こっちもいいかな……志貴さんのコレ、わたし好みだし……ん……匂いも、好き————」  つん、と鼻先をこすりつける琥珀。 「——————」  舌とは違う、その鈍く柔らかい感触は不意討ちだった。  びくん、と一際大きく肉棒が跳ねる。 「あっ……! あ、んっ……」  それを追うように、翡翠は舌を這わせてくる。 「はっ……んん、む……ぁ」 「はあ———あ、あ……ん」  前後から。いや上下から二つの舌が触れ合う。  硬く充血した生殖器を、まるで俺自身とするように舐め合う二人。 「んっ……志貴さん、今日は一段と元気です……こんないっぱい濡れて、んんっ……ご奉仕しがいがあります」  途切れ途切れの呼吸と声。 「……ん……姉さん、わたしも……そっちのほう、触って、みたい」  ぼんやりとした声で、竿だけを舐めていた翡翠が唇をあげていく。  二人は段々とお互いの位置を変え、同じように愛撫を続けた。  舌先を絡めてくる翡翠。  舌全体で包み込むように舐め上げてくる琥珀。  二人の唾液でぬるぬるになったペニスは見慣れた自分の一部ではなく、見知らぬ何かの器官のようだ。  ……二人の愛撫は、それこそ猫がじゃれあうような物だった。  濡れた肉に触れる二人の吐息は心地よく、前後左右に舐められる感覚も溜まらなく気持ちいい。  だが、それはあくまで甘いだけの愛撫にすぎない。いつまでもこうしていたいという感覚は、裏を返せばいつまでも続けられる感覚という事。 「———もっと強くだ、二人とも」  乱れかけた吐息を呑みこんで、そう告げた。 「ん……かしこまりました、志貴……さま」  荒い息遣いで答える翡翠。 「……はい。それじゃ翡翠ちゃん、志貴さんをお願いする、ね」  琥珀は名残りおしそうに雁首から離れていく。 「それでは始めさせていただきますね、志貴さん」  琥珀の声が部屋に響いた。  同時に———下腹部に生まれた、鈍い痛み。 「———————っ!」  腰があがる。  琥珀はぬらりと、舌全体で俺の陰嚢を舐め上げていた。  いや、それだけじゃない。  その唇で陰嚢を食み、じゅるじゅると、淫らな音をたてて吸い始める。 「つ——————」  今まで舌だけの愛撫だった為か、この変化は強烈だった。  くわえて——— 「んっ……あ、はむっ……んっ……!」  翡翠は横から、琥珀と同じように唇で俺の男根を咥えこむ。  ちゅ。ちゅるる、ちゅ。  そんな音が聞こえてきそうなほど、翡翠は熱心に肉棒を愛撫する。 「あは……志貴さん、また大きくなった」  袋を口に含み、容赦なく舌で責め上げて、琥珀は嬉しそうに言う。 「はい———こんなに大きいと、もう、わたし一人、じゃ」  口を離し、また舌でシャフトを舐め始める翡翠。  だが今度は舐めあげる、というより絡みつくというのが近い。  縦一直線だった舌の軌跡には、螺旋のような捻りが含まれている。 「んっ……志貴さま、こんなに、溢れて……んむっ……ぁ」  夢中になって亀頭に唇をつける翡翠。  流れ出す腺液を舌ではなく唇で吸い取られ、びくん、と竿が反応する。 「んっ……そろそろ、かな……志貴さん、我慢強いから」  指で袋の裏側を持ち上げ、ぞろりと舐め上げられる感覚。  ざらついた舌の感覚が、精のつまった源を針のように刺激する——— 「—————っ」  びくびくと脈動する。  自身のモノと翡翠のモノと琥珀のモノとでドロドロになった男根は、一段と血管を浮き彫りにする。 「—————二人、とも」  さがれ、とでも言う気だったのか。  もう尿道に乗った塊から二人を逃がすために腰を引く。  が、二人は離れずに、俺も、二人を離すまいと彼女たちの頭を手で押さえつけていた。 「くっ———二人とも、もう———」  最後の忠告を口走る。  それを聞き届けたのはどちらだったか。  破裂寸前の、醜く膨張したペニスをかじって、 「————ふふ。ぬるぬるに、なっちゃえ」  そう、楽しげに笑ったのは。 「っ……!」  迸る。  びゅくびゅくと音をたてて、白い濁液が二人を濡らす。  それは俺の腹やシーツにもこぼれて、確かに、あたりはぬるぬるに汚れてしまった。 「ん……志貴さん、のだ」  恍惚とした琥珀の声。  彼女は顔をあげて、俺の腹にかかった精液を舐め取っていく。 「………………」  それは翡翠も同じで、彼女はペニスに残ったモノを、丹念に吸い上げていた。  ぴちゃぴちゃ。  ちゅるちゅる。  卑猥な、それでいて愛らしい音。  ……俺のモノは三人分の体液に濡れて、もうワケの解らないモノになりさがっている。  だがそれに不満なぞない。  事前の遊びにしては最高だった。  口だけでここまで愉しませてくれたのだから、彼女たちの体はより深く愉しませてくれるだろう。 □志貴の部屋  床に跪いていた二人をベッドに上げる。  琥珀は素直に従い、翡翠はなぜかぎこちない足取りでベッドに上がった。 「—————さて」  愉しませてもらった分、今度はこっちからお返しをしてやらなくては。 「————あ」  と、不意に琥珀が声をあげた。  それも楽しげに、イタズラを企む子供じみた声で。 「みーちゃった。翡翠ちゃん、なに隠してるのかなあー?」 「ぁ……ううん、わたしは何も隠してなんて……」 「ふーん。ね、志貴さん。翡翠ちゃんに足を広げるようにご命令してくださいません? きっと可愛らしいものが見えますわ」 「なっ、姉さん……! や、いやです、聞き流してください志貴さま……!」  うきうきした様子の琥珀と、顔を真っ赤にして今にも泣きそうな翡翠。 「————そうか。じゃ、足を開いて、翡翠」 「……し、志貴さま————」 「はい、志貴さんのお言葉は絶対ですよー。ほら翡翠ちゃん、一人でできないのならわたしが手を貸してあげるから」 「や、や……!」  その泣き声を無視して翡翠の体にのしかかる琥珀。  そうして、  翡翠は、その可憐な体を露わにした。 「ほらやっぱり。一人でこんなに濡れちゃってるなんて、翡翠ちゃんはえっちなんだ」  ふふ、と笑いながら翡翠の体をいじる琥珀。 「あ……っ——姉さん、だめ……」 「ん……安心して翡翠ちゃん。翡翠ちゃんのココ、可愛いからきっと志貴さんも気に入ってくださるわ」  翡翠の上で蛇のように身をしならせて、琥珀は翡翠自身に指を当てる。  ……軽い眩暈。  うっすらと熱をおびた翡翠の体は、もとが白いだけに息を飲むほど美しい。そこへ、翡翠に勝るとも劣らない琥珀の裸体が重なっている。  二人の交わりは何か見てはいけない物のようで、理性がクラリと麻痺したのだろう。 「あ———っ、んっ……!」  翡翠の声。  ぴちゃり、という音をたてて、琥珀は翡翠の秘裂に指を這わせた。そうして、熱く爛れた膣内を見せるように指を開く。  剥き出しの性器は翡翠と同じうすい赤色をした陰毛と、俺のモノと同じく赤く充血した陰核、そして大陰唇をかきわけたその中身まで露わにした。 「……なるほど。たしかに翡翠はいやらしいな。俺は何もしていないのに、さっきのだけでそんなにトロトロになってるなんて」 「あ————いや、見ないで、見ないでください志貴さま……!」  瞳に涙を浮かべる翡翠。  それを愛でるように、琥珀は翡翠の足に舌を這わせた。 「っ……姉さん、もう……いじわるしない、で——」 「んふ、泣かせちゃった……可愛いよ、翡翠ちゃん」  琥珀は甘いものを舐めるように翡翠の肌を舐める。  膝からふとももへ。てらり、と唾液の跡をつけて琥珀は翡翠の核心へと近づいていく。  が。  意外なことに琥珀はそれ以上先には進まなかった。翡翠の秘裂まで伸びると思われた琥珀の舌はそこで止まり、イタズラな眼差しを俺に向けてくる。 「ね、志貴さん、わたしの言った通りでしたでしょう? 翡翠ちゃんったらこんなにお股をヒクつかせちゃって、よっぽど志貴さんを我慢できないみたいですわ」 「……………………」  琥珀の言葉に身を震わす翡翠。  ……確かに琥珀の言う通り、震えている翡翠は無茶苦茶にしたくなるほど可愛いかった。 「どうでしょう? 今日は趣向を変えて、志貴さんとわたしで翡翠ちゃんを悦ばしてあげませんか?」 「っ……! 姉さん、そんなバカなコト言わないで……! 志貴さまも、どうかそのようなコトは——」 「いや、琥珀の提案は悪くない。……そうだな、今日の主役は翡翠にしようか」  ニヤリと笑う。 「あ………………」 「琥珀。そのまま翡翠を悦ばせてやれ」 「はい、志貴さんのお望みのままに」  嬉しげに言って、蛇のように鎌首をもたげる琥珀。 「————姉、さん」  翡翠は身を引くが、琥珀のほうが遥かに手練なのだろう。  逃げようとする翡翠の体を優しく押さえつけ、その体に舌を這わせ始める。 「……っ……やだ、どうしてこんなコトするの、姉さん……!」 「莫迦ね、そんなの翡翠ちゃんが憎いからに決まってるのに。ほら、昔から言うでしょう、可愛さ余って憎さ百倍って」  無茶苦茶な理由をつけて翡翠を責める琥珀。  ……白い、それだけで官能的な琥珀の指が翡翠の体をなぞり、つまみ、揉みくだしていく。  同じ女だからか、それとも双子という特性ゆえか。  琥珀の指一本だけで翡翠は体をよじらせる。  血潮が激しくなる。  射精し、衰えたはずの男根は二人の交わりを見て再び活性化しだし、段々と遠野志貴の欲情を駆りたてていく。 「っ……あ……ん……んっ……」  耐えきれずに声をあげる翡翠。琥珀の愛撫で力が入らないのか、抵抗の素振りさえない。 「あはっ、翡翠ちゃんったら感じやすいんだから。……ん、胸はわたしより小さいかな。けどコレ、柔らかくていいなあ」  ぷにゃり、と翡翠の胸を手の平で包み込む。 「……あっ……っ、ぁ……」  翡翠の呼吸は段々と熱を帯びていく。  ぴったりと寄り添った琥珀の体から熱を受けているのか、それとも自身の中からの疼きなのか。  琥珀の愛撫はそう激しいものではなく、むしろ優しすぎるのではないか、というほどだ。  壊れ物を大切に扱うように、琥珀は翡翠の体に触れていく。  同じ性別、同じ身体を持つ二人が密着し、重なり合う姿は四次元の光景のようだ。  どろどろに溶け合う、という表現は女性と女性にこそ相応しいのかもしれない。  細くしなやかな肢体は隙間なく密着しあい、なだらかな曲線を滑るように、淫らな曲線が折り重なる。 「ん————翡翠ちゃんの肌、甘い」  ぺろり、と猫のように翡翠の頬を舐める琥珀。  翡翠はただふるふると震え、琥珀の愛撫に耐えている。 「……でもやっぱりわたしじゃダメか。翡翠ちゃん、志貴さんじゃないとイヤなんだもんね」  ふふ、と悪戯に耳元で囁く琥珀。 「ぁ…………………」  翡翠は頬を赤くして、こくんと頷いた。 「ですって。志貴さん、お願いできますか?」  答えるまでもない。  二人の絡み合いは官能的というより芸術的だった。それをもう少し見ていたいという欲求もあったが、今はそれ以上に、再び充血し行き場を求めているソレを翡翠に打ち出したかった。 □志貴の部屋 「————琥珀、そのまま続けて」  言わなくても解っているのだろうが、一応言葉にして告げておく。  琥珀は俺に場所を譲り、翡翠は力なくベッドに横になっている。 「……ふん。これじゃ今更俺がなにをする必要もないか」  翡翠のソコは、もう愛液で溢れている。  あれならばたやすく中に突き入れる事ができるだろう。 「本当に翡翠はいやらしいな。……もしかしたら琥珀さんよりいやらしいのかもしれないね」 「————」  翡翠は恥ずかしそうに口を閉ざす。  今の質問は、例えようもなく意地が悪い。  否定も肯定もできない言葉を、翡翠は辛そうに耐えている。 「——否定はしないんだ。それじゃあ、そんないやらしい子にはお仕置きだ。ほら、しっかり歯を食いしばっておけよ。舌を噛まれたらたまらないからな……!」  翡翠の両足を広げ、その間に体を沈める。  そうして一気に、前戯もせず翡翠の中に肉棒を突き入れた。 「んああああ—————————!」  跳ねる体。  それを押さえつけるように翡翠を愛撫する琥珀。 「あっ、んん、あ———————!」  打ち付ける腰は休めない。  ごん、ごん、と何度も翡翠の膣を犯し、蹂躙し、突き破る。  翡翠の膣はもう潤滑液で満ちていて、肉棒は苦もなく挿入できた。  だがきつくないという訳ではなく、圧迫は相変わらず強く、入りづらいのに入っていく、というおかしな矛盾を作っている。  その感覚。  ペニス全体を絞りながらも滑らかに前後させられる感覚が、たまらなく気持ちいい。 「いや、あ、は———! 志貴、さま、そんな、強すぎ、る————!」  構わずに突き入れる。  翡翠の中は、ただひたすらに受け入れるように出来ている。  俺が突き入れる痛みも、快楽も、俺自身も、全て受けとめて溜めていく。  それが俺にも伝わってきて、よけいに暴力的になってしまう。  快楽のかさが増せば、その分翡翠の感度も上がっていき、それは俺の悦びにもなる。 「————翡翠、もっと、だ」 「あ、ふぁ———あああ、あ————!」  がくん、と大きく揺れる翡翠。  じゅぶじゅぶと卑猥な音をたてて生殖器と生殖器が混ざり合う。  汗が伝う。  このまま、ただ前後運動だけを繰り返す機械になってしまってもいい、と思うほどの、一体感。 「あ——はあ、あ——! やだ、姉さん、たすけ、て……!」  容赦なく打ち付けられる事が恐くなったのか、翡翠は姉に助けを求める。  けれどその姉は、 「……ん……志貴さん、もっと翡翠ちゃんを泣かせて、あげてくださいね……」  翡翠の涙、快楽に火照る肌をいとおしそうに舐め上げていた。 「ふっ……あ、やだ、姉さん、そんな、トコ——!」  琥珀の指は翡翠の体の隅々を愛撫していく。  俺に貫かれている最中も、巧みな指遣いでぷっくりと充血した陰核を、汗と体液で水びたしになった尻の間を、きれいなピンク色のまま勃起した乳首を、絶え間なく刺激していく。 「もっと……もっと壊れて翡翠ちゃん。わたしね、翡翠ちゃんの泣き声、聞きたい」  翡翠の唇を奪う琥珀。  舌を絡ませあい、お互いを混じり合わす。  そうしていれば、いつか二人は入れ替われるのかもしれない。  どろどろに溶け合って意識と意識がすれ違う。  ……琥珀が執拗に愛している翡翠は、琥珀なのかもしれない。  だからこそここまで、一心に双子という片割れを慰めている——— 「あ、ああ、あうううう……! だめ、こんなの、わたし———!」  がくがくと揺れる体。  俺と琥珀、二人同時に責められて翡翠は我を忘れていく。 「———————っ」  そうなればなるほど、翡翠の膣は熱さを増した。  今までただ受け入れるだけだった襞たちは翡翠の意思とは別に動き出し、突き入れるオレ自身を責め始める。 「———さすが……琥珀さんと、同じ」  このまま進めば翡翠の中も、今妹を愛している彼女と同じようになるだろう。 「あ————は、うあ、ん—————!」  翡翠の声に理性がなくなっていく。  呼吸をしている様子もなく、彼女はすでに絶頂に近づいている。 「————————」  だがそれはオレも同じだ。  耐えに耐えた射精感はもう痛みにまであがっていて、力む尻はさっきからジンジンと痛んでいる。 「志貴、さま———お願い、もう……!」  翡翠が哀願する。 「———やだ……翡翠ちゃんだけ、ずるい」  それを、琥珀はぼんやりとした目で見ていた。 ———火照った体。  もはやピンク色にまで熱くなった肢体。  それは、貫かれている翡翠だけではなかった。 「———そうか。二人ともって言ったのは、俺だもんな」  朦朧とした意識で呟く。 「ほら、琥珀さん。こっちにおいで」 「え……志貴、さん?」  とろん、とした目で俺を見る琥珀。 「いいから。今日は三人一緒だって言っただろ」  その手を引いて、うり二つの彼女たちの肢体を重ねた。 「は————んっ…………!」  堪えるような琥珀の声。  彼女たちは体を重ね、その濡れた秘裂を重ね合う。 「あ、んっ……翡翠ちゃん、すごく、熱い———」 「姉さん——? あ、姉さん、だ」  二人は腰をじりじりと動かす。  腫れた秘裂は互いのモノとかみ合い、ぐじゅぐじゅと軟体動物のように絡み合う。 「はっ———翡翠ちゃん、いい……!」 「姉さん、こそ……なんか、かわ、いい」  翡翠の手が琥珀のソレに伸びる。 「はっ、あ—————!」  翡翠は中指で琥珀の陰核をなぞり上げる。  皮をむかれ、剥き出しになった赤いポッチはヒクヒクと震えている。 「あっ、く—————は、あ」  琥珀の肩が揺れる。  ……受けに回ると弱い琥珀は、翡翠の愛撫を受けて切なげに呼吸を荒だたせた。 「んっ……志貴さま……お願い、します」  腰をさげて、重なりあった秘部に隙間をつくる翡翠。 「———————」  そこへ、滾ったモノをズルズルと刺し込んだ。 「んっ————————!」  二人の吐息が重なる。  ……上と下。  ただ陰裂の表面をこするだけの肉棒は、二人にとって耐えがたいモノだったようだ。  二人を繋げていた快楽の波。それを阻む、言うなれば緩衝材に近いはずの俺のモノに、二人は貪るように自らをこすり付けてくる。 「はっ、んっ、んっ……! あは、志貴さんのが、はえてる、みたい……!」  ずっ、ずっ、と腰を擦り寄せてくる琥珀。  その動きに負けじと 「やだ———志貴さまは、わたし、の———」  下から、滑らかなプリンのような柔肉をこすりつけてくる翡翠。 「っ——————くっ」  その感覚は、中に挿れている時に勝るとも劣らない。  翡翠と琥珀、二人の柔肌にサンドウィッチされたペニス。  二つの秘裂の隙間に挟まった男根は、まるで愛液で洗われるように泡をたててしごかれる。 「んっ……なん、だか」  とりわけ、琥珀の締めつけが凄かった。  表面だけというのに根元まで呑まれそうになる感覚。  ……前言撤回だ。  琥珀は、翡翠とはまったく違う。  翡翠がどんなになろうとも琥珀とは違う。  翡翠が全てを受け入れる体なら、琥珀は吸い尽くす体だ。  一見同じでも二人の肢体はまったく違う。  あくまで可憐で折れてしまいそうな翡翠と、  繊細でありながら豊かで弾力に満ちた琥珀。 「あっ……は、あっ……なんだか、翡翠ちゃんと、志貴さんに、」  犯されてるみたい、と。  琥珀は、荒い息遣いでそう言った。 「はい……わたしもずっと、そんな、気が、し、て———」  乱れる翡翠の声。 「—————」  それは、そんな事は。  俺だって、同じ事を、錯覚していた。 「———————っ」  二人の締めつけはさらに深くなっていく。  彼女たちの表面だけを抉っている男根は膨張しきり、二人の息遣いは段々と一つになっていく。  なら、これは。  本当に、二人を一緒に抱いているという事か。 「ひす、い」  二つの陰裂の狭間を走らせる。 「こは、く」  二人は俺のモノを通じて、お互いの体を感じあっている。 「ひす、いっ……!」  異様なまでの一体感。  動かし続けた体はとっくに限界で、気が付けば—� 「こは、く……!」  俺の息も、倒れそうなほど、乱れていた。 ———気が狂いそうになる。  吐き気に襲われながら、それでも一際強く、可能であるのならば二人の奥まで至れるように、息をあげた。 「っ———行くぞ、二人とも……っ!」  耐えに耐えていたモノを解き放つ。 「———はい、来てください、志貴—————!」  俺の声に応じる二人の声。 「————————!!!!!!」  生殖器から迸る白。  それは滝のような激しさで彼女たちの体に飛び散り、射精の衝撃で揺れたモノは二人に最後の波を与えた。 「ん、あ———————!」  そうして、二人はその場にくずおれた。  体の中に走った衝撃と、外に浴びせられた熱さをふるふると耐えている。 「———————————」  こっちも限界。  ただでさえ息が上がっていた所に射精の快感だ。  まともに意識が保てる方がどうかしている。 「————翡翠」  声をかける。 「————琥珀」  ……手を合わせた二人がどちらなのか判別はつかない。  合わせ鏡のような二人は、結局———初めから一人だったのかもしれないなんて、そんな考えが、胡乱な頭の中で跳ねていた————  そうして、目覚めは重い。  泥の中から這い上がるように意識は眠りから覚めた。 □志貴の部屋  朝を迎えた。  ベッドには安らかに眠っている二人の姿がある。 「……珍しい。今朝は食事なしだ」  ぼんやりと呟いて、窓の外に視線を投げた。  時間は相変わらず平穏に過ぎていく。  二人が目を覚ました時、どんな変化が待っているのか。  ……そんなものはもう解りきっている。二人は何事もなかったようにそれぞれの仕事に戻り、俺を責める事はしないだろう。  それが望みだった。  翡翠と琥珀。  この二人を同時に求めて、それが叶えられた時、自分はどう思っただろうか。  ……もう、今では思い出せない。  彼女たちは安らかに眠っている。  そこにはなんの苦悩の影もなく、この世界に不安を落としているのは自分だけだ。  何を間違えたわけでも、誰か悪いわけでもない。  いや、やはり悪いモノがあるとすれば、それはきっかけを作ってしまった自分だろう。  空は遠い。  今日もまた平穏な、満ち足りた一日がやってくる。 ————そう。     初めは、確かに遠野志貴の夢だった。  けれど今では、これは彼女たちの夢。  まるで枯れない造花のような二人の願望。  それは現実では許されなかった関係、夢の世界でしか咲く事を許されなかった人工楽園だ。  ……庭園にはどの季節のものとも知れぬ花が咲く。  それがこの夢のカタチ。  降り積もる罪のように敷き詰められた、それは、青黄色のタナトスの花————